物語には、時に「最初は敵だったものの、途中から味方になる」キャラクターが登場します。
しかも、中にはとても魅力的な者も。
今回は、そんなキャラクターについて、「BLOOD+」(ブラッドプラス)に出てくる青年、ソロモン・ゴールドスミスと「有頂天家族」の2代目弁天さまに当てはめてお話させて頂きます。
「BLOOD+」ソロモン・ゴールドスミスの魅力
(C)2005 Production I.G・Aniplex・MBS・HAKUHODO
アニメ「BLOOD+」より引用
まず、私が思い出す該当キャラクターといえば、「BLOOD+」(ブラッドプラス)に出てくる青年、ソロモン・ゴールドスミスです。
彼は主人公の小夜(さや)と敵対する妹・ディーバに仕える騎士。
ディーバの手で吸血鬼となった「シュヴァリエ」です。
つまり、小夜とは敵対する立場です。
しかし穏やかなソロモンは、最初から荒事を好みません。
姉を攻撃しようとする主人・ディーバを窘めたり、敵である小夜に、仲間にならないかと誘ったり。
もちろん姉妹の対立は宿命的なもので、両者の戦いは加速していきます。
そんな中、ソロモンは主の宿敵である小夜に、少しずつ惹かれ始めます。
やがて彼は、兄弟の繋がりも、主との主従関係も捨て、小夜の許へ行くと義兄・アンシェルや、ディーバに宣言します。
血の定めにより、彼は小夜の交配相手になれる数少ない相手です(小夜達姉妹は自分の騎士ではなく、相手の騎士としか子を作ることが出来ません)。
しかし、そんなことが理由ではなく、彼は小夜自身を好きになってしまったのです。
何より大切なハズのディーバ達と袂を分かったのは、小夜の心を欲しいと思ったから。
もちろん、宿敵の部下であるソロモンに愛を告白されても、小夜はすぐには信用出来ません。
何かの罠かと用心するのも、当然です。
しかしソロモンは彼女の危機に何度も駆けつけ、元の仲間と敵対することも躊躇いません。
元義兄弟のジェイムスに捕らわれ、裏切り者として制裁されても、それは少しも揺らぎませんでした。
最後には、小夜達も血のルールを超えて、ソロモンを小夜の騎士だと認めました。
皮肉なことに、戦いの中で小夜の血(敵にとっての致死毒)が身体を掠め、その傷が原因で命を落とします。
死ぬところを見せまいと、小夜の前から姿を消すソロモン。
全身が硬化して死を迎える直前、せめてアンシェルを仕留めようとしますが……叶わず、義兄の腕の中で最後を迎えました。
例え命を落としても、小夜の危機を救うことが出来た。
ソロモン自身は、満足だったと思います。
そして敵になった後も、ディーバやアンシェルは、裏切り者のソロモンを憎むことはありませんでした。
他人に対して酷薄な二人にしては、とても珍しいことです。
長年一緒に過ごした、絆が強かったのかな……?と、色々考えさせられます。
小夜という女性に出会い、本当に欲しいモノを見つけたソロモン。
トレードマークの白いスーツを黒に替え、最後の最後まで、思う通りの生き方を貫きました。
彼は、作品中でも屈指の魅力的なキャラクターだと思います。
ちなみに、辻谷耕史さんの甘い声も素敵でした。
「有頂天家族」弁天さま
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
アニメ「有頂天家族」より引用
次に思い出すのは、「有頂天家族」のジョーカー的存在・弁天さまです。
しかし彼女は、敵とも味方ともつかない、微妙な立場の存在です。
気まぐれで、主人公と対立したかと思えば、ピンチな場面でフラリと助けてくれる。
主人公の矢三郎にとって、女神でも悪魔でもある、掴みどころの無い存在ですが、そこがまた、魅力的なのです。
弁天さまは、元は「鈴木聡美」という普通の人間でした。
しかし老天狗の赤玉先生の弟子となり、今は師匠を超える堂々の天狗ぶり。
空を自在に飛び、扇で雨風を操り……そして、その美貌と気まぐれさで、矢三郎や老師の心を翻弄します。
どうにも掴みどころのない、弁天さまの性格。きっと彼女自身にも、自分のことが理解出来ていないのだと感じます。
狸の矢三郎を気に入り、何かと贔屓しています。
「私は、食べちゃいたいほど貴方が好きなの」
弁天さまが矢三郎に、よく言う言葉です。
彼女なら、本当にやりかねない……自分の気持ちと反対のことを突然やるのが、弁天さまだからです。
また、弁天は矢三郎達の父親を罠に嵌め、あまつさえ狸鍋として食べた一人でもあります。
「とても美味しい鍋でしたよ」
そんなことを、食べた狸の息子に向かって、笑顔で告げる……矢三郎自身も、なぜ自分が弁天に惚れるのか、理解出来ません。
危険で不可解で、だからこそ魅力的です。
終盤で叔父に嵌められ、捕まりそうになる矢三郎。
弁天は空から突然現れ、彼を助け出します。
そして、さりげなく家族が捕らわれている場所を知らせ、用が済むとスッとタクシーで去って行きました。
深入りはしないけど、助け船は出す。
気に入らなければ、かつて手を組んだ相手も容赦なく邪魔する。
弁天の価値基準は、恐らく「面白いか否か」「好きか嫌いか」だけなのでしょう。
第二シリーズで、彼女は和解を呼びかける「天満屋」に「だって私は、貴方が毛虫みたいに嫌いなんだもの」と平然と告げます。
それを思うと、狸でありながら弁天と絶妙なバランスで付き合いを続け、時に逆らっても敵対しても、彼女に好かれている……そんな矢三郎は、稀有な存在なのだとつくづく感じます。