「星新一ショートショート」は、その名の通り故・星新一氏の小説を映像化した、画期的なテレビ番組でした。
2008年から深夜で、NHKにて放送されていました。
この番組の面白いところは、実写とアニメ、クレイアニメ等を使い分けているところ。
一話一話は短いのですが、アニメだったりドラマだったり、内容も異なる味わいで飽きませんでした。
目次
「星新一ショートショート」の魅力詰まった作品
今回はそんな数ある作品の中から、特に印象に残ったモノをご紹介します。
DVDで視聴出来ますので、興味を持った方は見てみて下さい。
短い話ばかりなので、気軽に楽しめます。
そして、ブラックだったり、驚きのオチだったり。
「大人のための童話」というキャッチコピーが、ピッタリですから。
①「ボッコちゃん」
もともと原作が、とても有名な短編作品です。
短いながらブラックユーモアがあり、独特な後味。
それを、ドギツイ色のCGで映像化しています。
ある酒場で働く女の子「ボッコちゃん」は、美人でツンとしてて、お客に大人気。
しかしその正体は、店主が作ったロボットでした。
会話も、お客の言葉をオウム返しにするだけ。
「年はいくつ?」
「いくつに見える?」
「キレイな服だね」
「キレイな服でしょ」
という風に。
しかし、それが思わぬ悲劇を招くことに……。
ボッコちゃんが飲んだお酒は、身体の中から取り出され、他のお客に再び提供されていました。
まさか、そのせいで……。
結末はぜひ、その目で確かめて下さい。
②「おーい、でてこーい」
こちらは一転して、デフォルメされた可愛いタッチです。
紙細工のような、絵本のような……。
物語は、酷い嵐で社が吹き飛び、とても深い穴が発見されたところから始まります。
底が見えないほど、深い穴。
「おーい、でてこーい」村人が穴に向かって叫びましたが、返事はありません。
たくさんの見物人が集まり、学者が調べましたが、穴の深さは計測出来ないほど。
ある業者が買い取り、ビジネスに利用を始めました。
ゴミ、死体、汚染物質……。
始末に困ったモノを、全て穴に捨てるのです。
都会からパイプを引き、ゴミは全て穴に入れ続けました。
そんな生活が続いた、数年後……。
ある日、都会の空から「おーい、でてこーい」という声が降って来ました。
つまり、この後は……。
悲惨な結末が予想され、ヒヤリとさせられます。
色々なモノを田舎に押し付け、快適に過ごす都会の住人への、皮肉と取れなくもありません。
③「ネコ」
こちらも、可愛いデフォルメタッチの絵柄です。
主人公は、飼い猫をこよなく愛す飼い主……ではなく、飼い猫のほう。
一軒家に暮らす一人と一匹の許に、ある日宇宙人が訪ねて来ました。
驚きに目をまわす、飼い主の男性。
困った宇宙人は、翻訳機で猫に話しかけます。
「この、倒れている人はどなたですか?」
「私の奴隷よ。しょうもない生き物だけど、なかなか役に立つわ」
優雅で平和を好む猫の様子に、すっかり感心した宇宙人。
「あなた方のような優雅な生き物が支配者なら、この星は安泰ですね。どうかいつまでも、支配し続けて下さい」
「そう在りたいと思っているわ」
やがて宇宙人は去り、目を覚ました飼い主は「ああ、夢か……」と、安堵します。
傍らの猫を見つけ、「おや、そこに居たのか。お前は本当に可愛いねえ」目を細める飼い主に、ただ可愛い声で「にゃあ」と答える猫。
う~ん……。
言葉が通じないだけで、実は猫は心の中で、こう思っているのかもしれない。
ヒヤリとさせられます、猫好きとしては・・・「知らぬが仏」とは、まさにこのことですね。
④「親善キッス」
こちらは絵柄もガラッと変わり、メチャクチャ濃ゆいギャグタッチです。
内容も明るめ。
ある宇宙船のクルーが、地球を代表して知的生物の住む星にやって来ました。
その星は文化レベルも地球に近く、住んでいる生物も、人間とソックリです。
ただし老若男女が皆、ミニスカート履きという点を除いて……。
船のクルーは、地球代表の使節団として、交流を深めにやって来たのです。
そして歓迎式典の最中、隊長は美しい女性に、思わずキスをしてしまいます。
一気にドン引きし、静まり返る一同。
しかし隊長は、機転を利かせて咄嗟に言います。
「これは、キスという地球式の挨拶です!地球のやり方で、親愛を伝えさせて下さい!」と。
この一言で、異星人達も納得。
皆で隣の人とキスを交わし、大いに盛り上がりました。
「地球のキスを、皆気に入りましたぞ!」と言う、異星の代表者。
これで隊長の面目は保たれ、隊員達は美しい女性達と思い切りキスを交わせて、大満足です。
ただし、女性以外ともキスする羽目になったのは、誤算でしたが……。
そんな中、歓迎式典はクライマックスへ。
皆で乾杯の音頭と共に、酒杯を持ち上げた次の瞬間……。
異星の人々は一斉にスカートをめくり、中から出て来た長い触手の先にある口で、酒を飲み始めたではありませんか。
驚きのあまり、固まるクルー達。
そう。
異星人の口は、地球人の肛門にあたる場所にあったのです。
つまり、口の場所にあるのは……?
クルー達が口づけしていたのは、実は……。
ああ、なんて恐ろしいオチ!
自業自得とは言え、苦い笑いがこみ上げますね……。
この後、彼らはどうなったのでしょうか。
⑤「月の光」
こちらはメルヘンな絵柄とロマンチックな雰囲気ながら、どこか淫靡なものが漂います。
静かで閉じた、愛のお話。
登場人物は、病院を経営する中年の紳士。
彼が自宅で育てている、美しい少女。
そして、紳士に仕える老いた執事です。
病院を経営する紳士は、捨てられていた少女を「ペット」として自宅で育ててきました。
ただし広い部屋の中から出さず、世話をするのは必ず自分だけ。
少女は部屋の中で運動し、眠り、紳士の手から食事を貰って食べていました。
そしてもう一つ徹底していたのは、言葉を使わずに育てること。
紳士には「言葉を使うと、愛情が薄まる」という、いっぷう変わった信念があったのです。
静かな月の光の中で、表情と身振りだけで意思疎通する、静謐な時間。
愛情を込めて見つめ、頭を撫で、髪を梳かし……。
一見奇妙な生活ですが、それでも紳士と少女は幸せでした。
紳士が、交通事故に遭うまでは……。
重体になった紳士は、少女に食事を与えることが出来ません。
老執事は言いつけを破って部屋に入り、事情を説明しようとしますが……。
言葉を知らない少女には、通じませんでした。
執事を恐れて隠れ、差し入れた食事にも手をつけようとしません。
そして紳士は、やがて命を落とし……同じ頃、食事を摂らなくなった少女も、静かに息を引き取りました。
この紳士の行動は、非難する人が多いと思います。
少女をペットとして飼育したこと、特殊な状況で、閉じ込めて育てたこと。
見方によっては、未成年監禁です。
これが本当に、少女の為に良かったのか?
しかし紳士は、これが最適な環境だと思っていたのでしょう。
そして、他の世界を知らない少女も……。
結果的に悲しい最後を迎えてしまったし、これが正解とは誰にも言えませんが。
しかし紳士としては、汚れた世の中から隔絶して「純粋な愛情」の中で、少女を育てたかったのだと思います。
なんとも言えず切なく、不思議で、少し後味が悪い……不思議な作品です。