アニメには、色々な作品があります。
いわゆる「鬱アニメ」と言われるように、観賞後に辛い気分になるものから、切なさに涙ぐむもの。
そして、見た後に元気な気持ちになれるもの……。
今回はそんな、少し前向きなパワーを貰える作品をご紹介させて頂きます。
「耳をすませば」
柊あおい・宮崎駿/徳間書店・スタジオジブリ
劇場アニメ「耳をすませば」より引用
まず推したいのが、スタジオジブリの劇場アニメ「耳をすませば」です。
原作は、柊あおいさんの同名漫画。
主人公の月島雫(つきしましずく)ちゃんは、中学三年生の女の子。
進路のこと、同級生のこと、そして気になる異性のこと……楽しい毎日は、悩み多き毎日でもあります。
主人公達と同年代の時は、彼らの真っ直ぐさが気恥ずかしく、何となく素直に見られませんでした。
でも、大人になって久々に再視聴してみたら、中学生達の真っ直ぐさが眩しくて、尊くて、なんだか素直に感動してしまいました。
恋だって、雫も友人達も、心配になるほどストレート。
駆け引きなんて考えもしていない様子が、大人から見ると危なっかしいような、でも、その素直さが眩しいような……。
雫の親友の夕子(ゆうこ)は、同級生の杉村(すぎむら)君が好き。
でも、杉村君は雫のことが好き。
そして、雫はバイオリン職人を目指す、天沢聖司(あまさわせいじ)君が好き……。
話している最中、思わぬ成り行きで、雫に告白してしまった杉村君。
見ているほうは、「ああ、そんな急に言ったら驚かせちゃうよ~」と、ハラハラ……。
案の定、雫はビックリして、断ってしまいます。
恐らく、薄々駄目だと思いながらも、気持ちを言わずにいられなかった杉村君。
そこには「断られたらどうしよう」などの、打算は少しもありません。
大人なら、つい色々な可能性を考えて、飲み込んでしまいそうですが……。
そして、杉村が自分に気が無いことを知り、目が腫れるほど泣いて、落ち込む夕子ちゃん。
また雫も、きちんと自分の目標を持つ聖司君と自分を引き比べて、悩み始めます。
成績が落ちることも構わず、初めて物語を書き始める雫。
母や姉に反対されても、目の前の壁を越えることで、頭がいっぱいになってしまう……。
真っ直ぐで、危なっかしい彼らの姿に、「近所の大人」の気分で見守ってしまいました。
聖司君も、バイオリン職人になる為に父親の反対を押し切り、2ヶ月間イタリアで、修行に挑みます。
「高校ぐらい出たほうが良いんじゃ……」と、つい現実的な視点で考える自分は、もう大人なんだなあ……と。
映画の終盤、雫ちゃんは初めての物語を書き上げ、自分に足りない物を確認します。
そして、イタリアから帰った聖司君は自転車で雫ちゃんを訪ねます。
なぜ、早朝に彼女の家の前に……。
これは、見方によっては完全にストーカーなのでは……?思わず、突っ込みたくなります。心の中で。
しかし時代のせいか(公開は1995年)、雫ちゃんは全く気にしていません。
素直に喜んで、彼に駆け寄ります。
聖司君は、雫をいきなり自転車の後ろに乗せ、走り始めます。
力を合わせて坂道を攻略した二人は、聖司君の「とっておきの場所」に辿り着きますが……。
ちょうど朝日が昇る瞬間を、一緒に迎えた二人。
聖司君は雫ちゃんに、「バイオリン職人になったら、俺と結婚してくれ」と求婚します。
いきなり求婚?お付き合いじゃなく?なぜ???
思春期の頃は、その唐突さが気になって、どうも馴染めませんでした。
でも、大人になった今は、何となく分かります。
ピュアだからこそ、一足跳びで「結婚の申し込み」という、極端な行動に出てしまったのだと……。
「大人になっても、その気持ちを持ち続けられるのかな?」
「離れて暮らすうちに、他の相手に目が向くのでは?」
など、少々意地悪なことを考えてしまいますが。
今の二人には、そんな雑音は屁でもないですね、きっと。
目の前の相手しか、見えていないのでしょう。
そんな純粋さを失くしてしまった私には、ことさら中学生達の素直さ、真っ直ぐさが、眩しく感じられるのです。
忘れていた何かを思い出させてくれる、清々しい作品です。
なお、本作で天沢聖司君の声を担当したのは、現在テレビで大人気な俳優さん・高橋一生(たかはしいっせい)さんとのこと。
それを知った時は、驚きました。
実はずっと前から、高橋さんの声を聴いていたのですね。私達は……。
「猫物語・白」
©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト
アニメ「猫物語・白」より引用
次に挙げたい作品は、「物語シリーズ」の中の一作品、「猫物語・白」です。
副題は、「つばさタイガー」。
数ある物語シリーズは、どの話も魅力的ですが……その中でも、特にカタルシスを感じる、清々しい後味のお話は本作だと思います。
本作の主人公は、ヒロインの一人・羽川翼(はねかわつばさ)さんです。
彼女は眼鏡に三つ編みヘア、大きなバストが魅惑的な美少女。
しかし、本当に凄いのは、高校生どころか、人類トップクラスの知識と頭脳。
そして更に凄いのは、ストレスを無意識に裏人格に押し付けて、どこまでも清らかさを保つ、その恐るべし在り方。
だから彼女は、どんな時も穏やかで、理性的で、優しくて、動じません。
それは生き物としてあまりに不自然で、忍野(おしの)メメに「気持ち悪い」と言わせるほどの、歪さ。
その笑顔の裏に、本人も知らない「地球に匹敵するほどのストレス」を隠していた、羽川さん。
しかし彼女は、シリーズ主人公の阿良々木(あららぎ)君と出会い、良い意味でも悪い意味でも、少しずつ壊れていきます。
彼と出会い、吸血鬼という非日常と関わり、仄かな変化への期待を感じ……。
しかし阿良々木君が、クラスメイトの戦場ヶ原(せんじょうがはら)さんと付き合い始め、羽川さんの笑顔は綻び始めました。
表では二人を祝福し、夜になると化け猫になり、鬱憤を晴らすように街中で暴れ回る……。
隠していた、羽川さん自身の「見たくない、醜い自分」がはみ出し始めました。
自分の想いを受け止めてくれない、阿良々木君。
血の繋がらない、心も通わない養い親達。
居場所の無い我が家。
そんな彼女を、主人公が命がけで止めたのが、前作「猫物語・黒」でした。
そして本作の「白」では、封じたハズの裏の羽川さんが、限界を迎えてまた暴れ始めます。
今度現れたのは、彼女の心から生まれた「虎」。
羽川さんを苦しめるモノを焼き尽くす、恐るべし「妹」です。
薄々自分の異常に気付いていた羽川さんは、目を逸らしていた自分の心と、向き合う決心を固めます。
そう思えたのは、きっと色々な人との出会いがあったから。
いつも誰かの為に命を賭けている、阿良々木君。
恋仇だけど、かけがえのない友人でもある戦場ヶ原さん。
専門家として、怪異と向き合う忍野さん。
何より、自分の暗い心から生まれた「猫」と「虎」という、妹がいるのですから……。
裏人格の「障り猫」も、ご主人である羽川さんの為に、身体を張って虎に挑みます。
しかし、力の差は歴然。
虎に全身を焼かれ、息も絶え絶えになった彼女を救ったのは……やっぱり、ヒーローの阿良々木君でした。
いつの間にか、「猫」から羽川さんに戻っていた彼女。
羽川さんは、妹を自分の内に受け入れ、そして阿良々木君へ、ようやく想いを告げました。
それは、ずっとずっと、言えなかった言葉。
「私と、結婚を前提に付き合ってくれない?」
その想いを正面から受けた阿良々木君は、しかし「ごめん。僕、好きな子がいるんだ」と、はっきり断りました。
「その子のこと、私より好き?」
「ああ」
どこまでも率直な二人の応酬。
二人の脳裏に浮かぶのは、家で眠っている戦場ヶ原さんの姿でした。
「そっか……」
はっきり想いを伝え、それをバッサリ断られた羽川さんは、ようやく失恋出来た、と感じます。
子供のように声を上げて泣く羽川さんと、彼女が泣き止むまで、頭を撫でる阿良々木君。
今まで抑えていた弱さや、暗い感情を受け入れた羽川さんは、化け物から、普通の女の子へと変わりました。
もちろん、人間離れした頭脳はそのままですが……。
髪を切り、眼鏡をコンタクトに変えただけではなく、内面も変わった羽川さん。
初めて義理の両親に自分の願いを伝え、初の「自分の部屋」を得ました。
それは自分だけではなく、自分の一部になった「妹達」の為でもありました。
帰宅し、初めての「ただいま」を告げた羽川さん。
不気味なほどに真っ白な人格者から、清濁合わせ持つ、一人の人間に戻ったのです。
自室の中で目を閉じ、吹く風を感じる彼女の姿には、これが新たな出発だと感じさせられました。
色々な物を手放し、それ以上にたくさんの物を取り戻した羽川さんの勇気。
清々しく、どこか暖かい、素晴らしい幕でした。
数ある物語シリーズの中で、私が特に本作を好きな理由……それは、実際に視聴して頂ければ、きっと共感して頂けるハズです。
「四畳半神話大系」
©中村佑介・森見登美彦/四畳半主義者の会
アニメ「四畳半神話大系」より引用
前述の二作とはタイプが異なりますが、「四畳半神話大系」も、清々しい後味の作品です。
全十一話を全て見終ると、今の現実を肯定したくなる……そんなアニメです。
主人公の「私」は、不満多き大学生。
うまくいかない人間関係、勉学、恋にサークル活動。
その原因を、トラブルばかり起こす悪友の「小津」(おづ)のせいだ!と、いつも不満でいっぱい。
「入学時からやり直しが出来たら……!」と、「たられば」に想いを馳せてばかり。
しかし主人公は気付いていませんが、主人公は一話ごとに時間を巻き戻し、毎回別の選択をした、別の世界で生き直しているのです。
いわゆる、パラレルワールド。
しかし、入学時にどのサークルを選んでも、結局小津と出会い、不本意な結果を迎える主人公。
後輩の明石(あかし)さんと上手くいきそうなのに、毎回チャンスを逃し続けています。
様々な選択を経た主人公が最後に選んだのは、「外に出ないこと」。
どのサークルにも入らず、人と関わらず、愛すべき下宿の部屋で暮らしていく。
そんな主人公を待ち受けていたのは、延々と続く四畳半の世界でした。
ある朝、目覚めた彼が迷い込んだのは、どこまでも続く自分の下宿の部屋。
窓の先も、ドアの先も、見覚えのある自室しかありません。
限られた食料で工夫して栄養補給したり、いつまでも眠ったり。
しかし、変わらない毎日に飽きた主人公は、この世界から脱出しようと行動を開始します。
目印をつけて、歩き続ける毎日。
いつの間にか数ヶ月が経ち、髭も髪も伸び放題。
変わらない毎日の中で、彼が思うのは……
風呂に入りたい。
屋台のラーメンが食べたい。
大学に行って、人に会いたい。
たくさんの部屋で見たのは、自分が知らない、別の世界の自分の、生活の片鱗。
その中にいる時は不満でいっぱいだったのに、端から見ると、なんて楽しそうで、輝いているのだろう……。
そして、主人公は気付くのです。
会ったことのない、映像の中にいる「小津」という人物が、かけがえのない親友だということに……。
そのことに気付いた主人公は、終わらないループを抜けて、ようやく元の世界に帰還します。
下宿の外に出てみると、折しも悪行がバレて、集団に追われる小津の姿が……!!
全裸の主人公が小津の眼前に飛び出し、「小津!俺だー、俺ー!」「誰ですか、アンタ!?」というやりとりをする場面は、笑ってしまいました。
結局それが縁で、この世界でも小津と関りが出来た主人公。
そして、ようやく明石さんに、デートのお誘いをすることが出来ました。
「なぜか私は、その言葉をずっと待っていたような気がします」
いつになく嬉しそうな、明石さん。
今まではずっと言えなかったけれど、勇気を出しさえすれば、相手は応えてくれたんだ。
例え玉砕しても、恥をかいたとしても、勇気を出して、飛び出さなければいけない時がある、と。
ケガをして入院した小津を、主人公と明石さんが見舞います。
「なんでボクの為に、そこまでするんです?」
問われた主人公は、小津の十八番である、台詞で応えるのですが……それが何かは、実際に視聴して確かめてください。
今まで、さんざん小津に言われてきた、あの台詞。
ここでこう来るか!と、思わずニヤリとすること請け合いです。
物語が、綺麗に完結した快感。
そして、見慣れた筈の日常が、とたんに輝いて見える、不思議なマジック。
気付かないだけで、自分はもう十分に幸せだった……そんなことを、考えさせてくれるラストシーンでした。
以上が見た後に気分が爽快になるアニメ3選。
気分が落ち込んだ際には是非とも見てみて下さい。