「うる星やつら2ビューティフルドリーマー」という作品をご存知ですか?

うる星やつらの映画版。

と言ったら、どうせドタバタ騒ぎのコメディでしょ・・・という反応を示す人が多いと思います。

しかし、この作品が傑作となった理由は明確に存在します。

是非、1980年代に公開されたこの作品を今の人にも見ていただきたく、この記事を書いています。

 

 

 

 

「うる星やつら2ビューティフルドリーマー」とは

「ビューティフルドリーマー」とは、高橋留美子のマンガ作品「うる星やつら」を原作として、1984年に公開された押井守監督/脚本の劇場版アニメ作品です。

概ね原作どおりの設定背景でありながら、物語展開については原作の世界観を大胆に覆す内容であるものとして知られています。

今回は、本作がどのようなものであったかを紐解き、本作品に対する理解を今一度深めるため、原作と本作の違い、その違いに関する考察、考察に基づく感想を取りまとめて語りたいと思います。

 

 

「うる星やつら」原作と「ビューティフルドリーマー」の違い

まず原作は、言わずと知れたラブコメマンガの傑作です。

何かと厄災を呼び寄せる高校生・諸星あたると押し掛け女房の宇宙人・ラムを中心にして巻き起こる数多の事件が、独特のセンスで面白可笑しく描かれています。

 

一方「うる星やつら2ビューティフルドリーマー」は、原作に基づいたオリジナルのエピソードが語られるものとなっています。

ここまで読むと、単なる「アニメオリジナル作品」というだけで、根本的には原作に沿って話が進むものであると捉えることができます。

 

しかし、原作と本作は「時間経過」についての考え方が全く異なり、その違いは作品を楽しむにあたっての重要なポイントとなっていますので、その考え方とは具体的にどういうことなのかを述べていきます。

 

まず原作の時間経過については、週刊少年サンデーにおいて1978~1987年までの長期間に渡って連載していたということもあり、

現実の時間経過に沿って春夏秋冬にまつわるエピソードが繰り返し描かれておきながら、

登場人物たちは年を重ねることなく、あたるとラムは連載終了まで高校2年生のままでいます。

 

一方「る星やつら2ビューティフルドリーマー」は、文化祭の準備で学校に泊まり込む日々を送る中で、

いつまで経っても文化祭当日が訪れないという奇妙な現象に巻き込まれていることに登場人物らが徐々に気付き始めるところから物語がスタートし、

結果としてはその現象を引き起こしていた妖怪を退治して、めでたく文化祭当日を迎えるという筋書きとなっています。

 

さて、この具体例を時間経過の観点でもう1度比較してみますと、原作は「高校2年生の無限ループ→そのまま終了」に対し、

「る星やつら2ビューティフルドリーマー」は「文化祭前日の無限ループ→脱出して終了」となります。

原作と本作どちらも無限ループの中に居ることは変わりませんが、本作についてはラストで無限ループから脱出しています。

 

この「無限ループから脱するか否か」という点が、原作と本作を決定的に違うものとしているのです。

 

 

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「うる星やつら2ビューティフルドリーマー」の考察

前項で述べた所謂「無限ループ」は、うる星やつらだけでなくとも長期連載していればそうならざるを得ないもの。

数多ある既存の作品を読むことによって皆さんもご存知のところだと思います。

 

その特徴に関して幕間で作者が自虐的に指摘したり、または登場人物自ら作中にてメタ的な指摘をする等、例は枚挙に暇がありません。

それでも本作が傑作とされているのは、その「登場人物自ら作品の矛盾に気づく」という本来数カットで終わらすネタを、丸ごと1本劇場版にしてしまうという「膨らまし方の妙技」が詰まっているからだと思います。

 

例えば、あたるとラムの同級生・メガネや、学校の保健医・サクラらが、要するに「これ何かおかしい」と言いたいだけのことについて、緊張感溢れる長台詞をたっぷり用いて焦らすように迫る様子は、本作に散りばめられた妙技の中のひとつであると言えるでしょう。

また、無限ループ世界そのものは、その存在に気がついた人物たちが一種の呪いによって地球平面説の象を彷彿とさせる姿に変えられて宇宙規模で支えることにより成り立っているという構成も、相当な膨らまし方であると言えます。

そして、そのような「無限ループ」から脱出するということは、まるでこの世の中に沢山存在する無限ループ作品に対して、その物語の在り方に異議を唱えているかのように受け取ることができます。

しかもそれを無限ループの代表作自らが口にするわけですから、自分のことを棚に上げるにも程があるぞ・・・と怒り狂う視聴者がいても決して不思議ではない結論です。

 

劇中では、無限ループから脱出したあたるがラムに対して「それは夢だ・・・夢なんだよ、ラム」と優しく諭すムード豊かなシーンがありますが、前述の怒り狂うような思考を持ち合わせている視聴者たちは「お前が言うな!」とスクリーンの向こう側から一喝したことでしょう。

 

 

「うる星やつら2ビューティフルドリーマー」感想

前項において、視聴者が怒り狂うことが想定される作品ではないかと考察しましたが、感想を端的に言ってしまえば非常に大好きな作品です。

個人的には、前項で述べた内容のうち「膨らまし方の妙技義」が見事であるという方に傾注して楽しんでいるので、もうひとつの事項「無限ループする物語の在り方に唱える異議」については、「そりゃまあご尤もですよね」程度の平坦な感情しか持ち合わせておらず、ネガティブな印象は殆どありません。

原作と異なる作品は得てして批判されがちですが、本作については原作と大きな違いがあるにせよ、アニメ作品としてのクオリティが批判を寄せ付けないレベルにまで達していると大いに評価できます。

 

 

 

まとめ

最後に「うる星やつら2ビューティフルドリーマー」と原作との違いとその特徴についてまとめます。

  • ビューティフルドリーマーは「無限ループから脱するか否か」という点で原作と大きく異なります。
  • 違いのポイントは「膨らまし方の妙技」と「無限ループ物語の在り方に唱える異議」です。
  • 個人的には「膨らまし方の妙技」に傾注して楽しんでいます。

「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンドレスエイトなど、この作品の背景を揶揄するストーリーは現代にも影響を与えていると考えられています。

これが1984年に公開されたのですから・・・何とも斬新なストーリーだということがお分かりいただけるでしょう。

普通だと人気アニメの劇場版はオリジナルだとしても原作の雰囲気をそのまま2時間に凝縮したような作品を制作しますが・・・原作そのもののあり方に異議を唱えるようなかなり思い切った作品に仕上がっています。

だからこそ、今でもファンの間では語り継がれる傑作として名前が上がりますし、現代の若者にも是非見てほしい作品の1つです。

このブログで初めてその存在を知る・・・という人もいるでしょうから、是非これを機に見てみてください。