この世には、様々なタイプの物語があります。
中には、見た後に暖かい、ほのぼのした気持ちになれる作品も……。
今回は、そのほのぼのとした作品の中でも「有頂天家族」をご紹介します。
ほのぼの系アニメで推したいのは、「有頂天家族」シリーズです。
森見登美彦先生の小説が原作で、ゆるい笑いの中にも、不意討ちでウルッとさせられる、家族愛の物語です。
舞台は、現代の京都。
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
アニメ「有頂天家族」より引用
有名な下鴨神社に住む、狸の一家を中心にお話が紡がれていきます。
偉大な亡き父と、若く愛らしい母。
堅物の長男、マイペースな次男。
そして主人公、面白さ至上主義の三男。
幼い四男。
彼らは狸ですが、頻繁に人間の姿に化けて、街中をブラブラ歩いています。
その日常は、極めてのどか。
片想いの美女にちょっかいを出したり、銭湯でコーヒー牛乳を飲んだり、大文字山を見物したり。
狸はいいなあ、学校も会社も無いんだもの……そんな風に言いたくなるほど、気ままな毎日を送っています。
それにしても、人間の街で買い物する時の貨幣はどうしているのでしょうか……。
まさか、古典的に葉っぱのお金だったりして……?
「有頂天家族」には、本当の悪人というのは殆ど出てきません。
主人公の叔父など、若干の例外はありますが……。
ワガママで意地悪なヤツも、どこか抜けていて愛嬌があります。
主人公の従兄弟である「金閣・銀閣」兄弟など、その最たるものでしょう。
間違った四文字熟語を得意げに披露し、しっかり者の妹に怒られてシュンとする……。
何かと主人公の邪魔をしてきますが、最後はいつも反撃されて、川に落ちたりと痛い目を見ています。
現実と同じく、作品世界の中にも「食物連鎖の掟」は存在します。
古来より、狸は人間に食べられるもの。
その例に漏れず、兄弟の偉大な父も鍋になり、「金曜倶楽部」という集団に食べられてしまいました。
しかし、恩師や知人の大学教授が語る父の最後は、ちっとも湿っぽくありません。
笑って鍋になる運命を受け入れ、「俺の息子たちは、もう大きくなったから大丈夫」と、逃げも隠れもせずに食われた、亡き父上。
そこには、やりたいことは全てやってきた!悔いは何も無い!!という、あっぱれな父の生き様が透けて見えます。
旧友の赤玉先生と握手を交わし、胸を張ってあの世へ続く道を駆けていった、父の最後。
その様子を話に聞き、冬の夜空を見上げる主人公。
「死」という重いテーマも、軽々と超えていく……それは、狸の視点で進む物語ならでは、かもしれません。
裏を返せば、心残りが無いように、思いっきり楽しく生きるべし!!ということ。
かくて、終盤で囚われた主人公と家族は、全力で死に抗います。
まだまだ、ここで死ぬわけにはいかない!とばかりに。
そこには弱虫の弟が振り絞った勇気や、引きこもりの次男が見せた驚きのトランスフォームなどがあり、功を奏しました。
空飛ぶ電車に乗り、囚われた母を助けに向かう兄弟達。
そのまま宴会場に突っ込んだり、やりたい放題で、もうあたりはメチャクチャ。
怒った兄は虎に化け、黒幕を噛み殺そうと追い回します。
ラストは天狗のつむじ風で宙に舞い、空飛ぶ美女に救出される……。
命がかかった局面でも、下鴨兄弟のやることは、どこかヘンテコでユーモラスです。
そして、兄弟を陥れようとした悪人も、死ぬことなく生き延びるのがお約束。
第二シリーズのラストで、仇敵の夷川早雲(えびすがわそううん)は鬼に捕まり、地獄に引きずり込まれます。
「今頃、地獄の屋台でラーメンでも茹でてるさ」
「アンタは、それでいいの?」
自分の父親を殺した仇が生き延びて、仇を討てなくて。それでいいの?
仇の娘に問われた主人公は、それでいいのさ、と気楽に返します。
憎い相手でも、命を奪うのは性に合わない……。
甘いといえば甘いけれど、それが狸らしいのかもしれません。
憎い気持ちはあるけれど、命をとるのはガラじゃない。
それが、「有頂天家族」の良いところ。
白黒つけるばかりが、能じゃない。
時には許したっていいじゃない、狸なんだし。
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
アニメ「有頂天家族」より引用
そんな、いい加減さを許容する空気が、本作の最たる魅力だと思います。
「面白きことは、良きことかな!」
息苦しく世知辛いリアルに疲れた時、この物語の中に入って、ゆるーい空気を感じる……。
そんなひと時があっても、良いと思うのです。
おまけ
登場人物が死なない、残酷な描写が無いというのは、「ほのぼの」の必須条件なのかもしれません。
そういう意味では、「子供向け作品」は向いているかもしれません。
懐かしの作品ですが、「魔法少女プリティサミー」も、その系統です。
ずいぶん前(1996年)に放送された作品だし、「おいおい、魔法少女ならプリ〇ュアだろ!?」と言いたい方もいるかも、ですが……。
でも「悪役が抜けている」「人が死なない」という点では、これもイイ線いっているハズ。
本作は、有名な「天地無用!」シリーズから派生した、スピンオフ作品です。
主人公は、小学生の女の子・砂沙美(ささみ)ちゃんが魔法少女に変身し、敵と戦うというストーリーです。
しかし、この敵=「ピクシィミサ」はエセ外人口調で、はちゃめちゃな女の子。
大それた悪事を働く訳ではなく、いつもサミーに敗北してしまいます。
その正体は、普段は正反対の性格なのですけれど……。
黒幕の裸魅亜(らみあ)も含め、敵キャラもどこかおマヌケ揃いで、もちろん人が死んだりはしません。
毎回、敵が現れて悶着を起こした後、サミーに退治される……そんなお約束は、もはや様式美です。
そう、「水戸黄門」と同じ安心感が……。
同様に「アンパンマン」など、子供向けの作品は、安心して視聴できる物が多い気がします。
大人にとっては刺激が少ない……と思いきや、「クレヨンしんちゃん」など、時に深いメッセージを秘めたモノも……。
特に劇場版は「モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「アッパレ!戦国合戦」など、大人にこそグッとくる、傑作も……。
まあ、後者は「ほのぼの」というよりは、切ない後味を残しますが。
傑作であることは、疑う余地がありません。
今回ご紹介した作品は、いずれも安心して視聴出来るものばかり。
ぜひ一度、ご覧になってみてください。DVDなど、現在も入手・レンタル可能なものばかりです。
最近は動画視聴サイトで扱っていることもあるので、そちらで探すのもアリかもしれませんね。