記録的な大ヒット漫画が原作である『進撃の巨人』。
実写映画化もされ、もはや誰もが聞いた事はあるほどメジャーになった本作ですが、その始まりは失礼ながら漫画誌の中でもマイナーといっていい別冊少年マガジンという少年漫画誌の創刊と共に始まりました。
創刊にあたり設けられた「希望を描く為にはまず絶望を描かなければならない」というコンセプトを最も如実に表現してみせたのが今作であり、
当時も原作は一部の愛好家からは高い評価を受けていましたが、2013年にアニメ化されたことで人気が爆発。
2017年には2期の放送も始まり今もって高い人気を獲得しています。
ありきたりな側面もあり、しかしシュールすぎるほど残酷な側面もあり・・・なぜここまで人気が出たのか、というと疑問符を付ける人もいるでしょう。
しかし、王道の要素と邪道の要素を掛け合わせている絶妙な作品だからこそ、人気に火が付いたと僕は思います。
王道は派手なバトルシーン。
巨人と人類という分かりやすい構図で激しく戦いを繰り広げる点や、巨人からくらべるとちっぽけな存在の人間が巨人に立ち向かう姿はまさに燃える要素だと言えます。
邪道なシーンは頭を使うようなシリアスシーン。
何が正しいのか分からないという正解が読者自身の考えに左右される点はまさに小説的であり、王道バトル漫画には無いような邪道的なシーンだと言えます。
人気の理由は様々ですが、一つには本作が現代人のもつ閉塞感を巨大すぎる壁というモチーフを使って表現している事も、その理由の1つに上げられるかもしれません。
©諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会
アニメ「進撃の巨人」より引用
壁に守られ平和が続いたお陰でただ生きていくだけなら可能ですが、そこに自由はなく未来も見出すことができない。
それはまさに現代日本に生きている日本の若者が感じている虚無感であり、たとえ壁の外に巨大な困難が待ち受けていようと外にでて本当の世界の広さを知りたいという主人公のエレンに多くの若者が共感してしまうのだと思います。
また本来はそのような風刺に富んだ作品というのはお高くて鼻持ちならないものになりがちですが、本作は幾重にもはりめぐらされたサスペンス的伏線の回収や人間VS巨人のバトルが純粋にエンターテイメントとして超一級であり、読み進める度に次はどうなってしまうのだとハラハラしてしまいますし、なによりそれらを展開するキャラの魅力も素晴らしいものがあります。
例えば作中屈指の人気キャラであり人類最強の兵士であるリヴァイ兵長というキャラがいます。
普段は寡黙だけど実は部下想いであり、それでいて一度剣を抜けば自分の何十倍も大きいであろう巨人をバッタバッタとなぎ倒す。
その姿に男の子のみならず多くの女の子が憧れを抱いてしまうのは当然のことでしょう。
しかし彼の本当の魅力はそういった超越的ヒーローの側面の他に、意外と喋る時は喋るし部下にどう思われているか気にする様子もみせる、潔癖症で掃除の鬼である等の人間臭い部分にあるとように思えます。
原作者の諫山先生はあるインタビューで「キャラには長所だけではなく短所やコンプレックスを与える様にしている」と答えていましたが、人間というのはあまりに自分と遠すぎる完璧な存在よりも同じ様に悩みを抱えている姿に共感を憶えてしまうものなのかもしれません。
他にも本作のキャラは打倒巨人の目標を掲げ、勇ましいけどなかなか思う様な活躍ができずいつも負けっ放しの主人公エレンや、
リヴァイに次ぐ最強の兵士にも関わらず主人公の事を思うあまりにいわゆるヤンデレと化してしまうヒロインのミカサ、
そして巨人の事が好きすぎていつも周りの事が見えない変人のハンジなど、長所と短所を抱えるキャラで構成されており、そこに視聴者はまるで自分たちと同じ地平線上にそのキャラたちが存在しているのではないかというリアリティを感じてしまうのです。
その中でも僕が個人的に好きなキャラクターが危険に身を投じて壁の外を調査する「調査兵団」の団長を務めるエルヴィン団長。
人類の未来のためには平気で自分の命をも捧げてしまうというほど自分の中で確固たる芯を持つ男。
あるシーンでは右手を失いながらも全体に指示を出すなど、まさに上司にしたい男ナンバー1。
痺れるシーンが非常に多い男です。
弱点と言えば、平気で人文の命を投げ出せるほど線引きが強すぎる点ですかね・・・人間味を少々失ってしまっているような側面があります・・・。(;´Д`)
©諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会
アニメ「進撃の巨人」より引用
登場した頃はその衝撃の展開から「今まで見た事のないストーリー」と評される事の多かった本作ですが、原作者である諫山先生が公言しているようにそのストーリーラインや演出は『マヴラヴオルタナティブ』という、所謂エロゲーを参考にしているものと思われます。
またアニメでの巨人同士の戦いぶりは『新世紀エヴァンゲリオン』。
巨人に対抗するための兵器である立体機動装置の演出は『スパイダーマン』を彷彿とさせる表現になっており、様々な他作品からのオマージュやインスパイアも伺えます。
キャラのモデルも作者が明言しているものもあり、例えば前述したリヴァイはアメコミの名作『ウォッチメン』に登場するロールシャッハというキャラを参考にして作られたそうです。
このように本作品は急にふってわいたように現れた訳ではなく、これまでの漫画やゲーム、アニメ作品等が培って来た技術を結集してつくられたものであり、特にいわゆるサブカルと呼ばれる分野の影響を強く受けている事が伺えます。
主人公のエレンがその身で体現しているようにこの作品のテーマの一つは「周りにどういわれようと自分の信じた道をいく」ことであり、それはそのまま原作者の諫山先生の伝えたいメッセージなのでしょう。
本作はアニメのクオリティも抜群に高く、キャラの個性の描き分けやアクションシーンなどがより鮮明に美しく描写されているため、原作にまだ触れていない人も入り易くなっていると思います。
400作品以上のアニメ作品を見た僕が、作画がキレイなアニメ作品として名前を挙げるほど、作画のクオリティは非常に高いです。
特に「進撃の巨人」は漫画の絵が汚い・・・と言う感想をもたれがちです。(^_^;)
そのため、まだ「進撃の巨人」に触れていないのであれば、是非ともアニメから見始めることをお勧めします。
原作では本筋も大きく進展し、ますます目が離せない展開になっていますし、まず確実に三期もある作品であると思いますのでますます目が離せません。
巨人という圧倒的な存在に対して小さな人間がどう戦うのか、見れば必ず手に汗握ること間違いない傑作になっていると思いますので、個人的にぜひオススメな一作です。